2025年1月6日月曜日

第42回読書会 『独ソ戦』


新書読書会「連鎖堂」を行いました。今回の課題本は『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(大木毅、岩波新書)。新書大賞受賞の実力はいかに?

 結論から言うと、『独ソ戦』、ものすごくお勧めです。このテーマなのに興味深すぎて高速で読めちゃいますので、今こそ本当に、ぜひご一読を。

 以下、参加者から出た意見です。

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Aさん

 この本で最も驚いたのは、セヴァストポリ要塞攻略戦が、2行で書かれていたこと(135頁)。戦記物の読者としては、衝撃です。スターリングラード攻防戦に次ぐくらいの重要な戦闘で、ゆうに一冊書けますよ。

 この本の冒頭(ⅶ頁)にも書かれていますが、戦記物はドイツ軍将校の書いた文章をもとにしていることが多いので、戦記物読者は、ドイツ軍はヒトラーに妨害されて負けたと考える傾向があります。私も、ドイツ軍に責任がないとまでは思っていませんでしたが、ドイツ軍史観に影響されていたのだなと分かりました。

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Bさん

 1941年6月に対ソ開戦して、同年10月には独ソとも既にボロボロ、「グロッキーになった二人のボクサーに似たありさま」(72-73頁)なのに、それから3年半ももっと悲惨な戦闘を続けるというのが、すさまじい。

 スターリングラード駐留ドイツ軍は、ヒトラーの死守命令に従ったために包囲され、壊滅に追い込まれつつあった。ヒトラーは司令官パウルスを元帥に進級させ、「プロイセン・ドイツ軍の歴史において、元帥が降伏したことはない。元帥となったパウルスも最後まで戦うだろうとヒトラーは信じたのである」。ところがその翌日、パウルスとドイツ軍はソ連軍に投降、ヒトラーは激怒。パウルスは捕虜となった後、ナチス批判に傾き、「ついには、投降した将校を以て『ドイツ解放軍』を結成するとの案を出したが、ソ連側が、この計画を顧慮することはなかった」(164頁)。
 不謹慎だが、あまりに滑稽なので笑ってしまった。

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Cさん

 ヒトラーとスターリンのキャラクターがやはり印象的です。

 ヒトラーとスターリンがヨーロッパを支配するもう一つの世界を描いた『青い脂』(ウラジーミル・ソローキン)を読んでいるんですが、この二人の独裁者が手を組むという歴史ifものはよくあります。
 しかし、ヒトラーとナチス・ドイツの、劣等人種(ウンターメンシュ)視が実際とても強くて(ⅳ頁、81頁ほか)、ヒトラーとスターリンのタッグはifとしても成り立たないんだなということがよく分かりました。

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Dさん

 自らの粛清によって弱体化したソ連と、「快進撃」だけで補給を考えないドイツとの間で延々と続く悲惨な戦闘を読んでいると、栗城史多さんを思い出しました。熱く語って皆が賛同したストーリーに自ら囚われて、引くに引けないまま死地に赴くありさまが。

〔栗城史多(くりきのぶかず):「夢の共有」を掲げて華々しく活動し、毀誉褒貶のなかで滑落死した登山家。メディアを巻き込んで繰り広げられた彼の「劇場」(河野啓『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』紹介文より)〕

 星新一曰く、「戦争の真の恐ろしさは、殺人、飢え、破壊、死が発生するからではない。全員がいつのまにか画一化された思考になり、当然のことと行動に移すことにある」。本書を読んで心から同意できました。

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Eさん

 悲惨さがものすごいですが、これはイデオロギーとナショナリズムの融合によって生じた(220頁)というのが、最も印象的でした。ナショナリズムは、人々を盛り上げるには好都合ですが、それはどうやって止めるのか、と思います。そしてこの融合が、相手を人間と思わないところまでエスカレートさせています。

 『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』(ティモシー・スナイダー)を読んだときも思ったのですが、本書でも随所に書かれているように、この非人間性が、降伏するという選択肢を消してしまいます。そしてこれが、さらに悲惨を呼んでいるようです。

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Fさん

 5頁のスターリンの大粛清などスターリンもヒトラーも馬鹿だと思えてしまう。50頁の「ロシアはフランスではないと思い知らされる」の記述には、「民族によってそんなに違うのか?」と考えさせられた。2人についても、当時世界情勢全体についても自分が知らなさすぎることに今回気づいたので、次はヒトラーの生涯を書いた新書『アドルフ・ヒトラー 「独裁者」出現の歴史的背景』(村瀬興雄、中公新書)を読もうと準備している。

 『独ソ戦』の内容は教科書に載せて若い人にも学んで欲しい。

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Gさん

 戦争は、どうしても戦わざるをえない状況に追い込まれて始まる、のではない、と本書を読んで思いました。3章にあるとおり、戦争は非合理的な思考から始まっています。

 大学のころ、担当する主張をランダムに振り分けられたうえで、その主張を根拠づけるように論じ合って優劣を競うという、法学ディベートの授業がありました。
 今でも印象に残っているのが、憲法9条がテーマになった回です。私は当然、平和を重視する側が勝つと思っていたのですが、平和が大切というだけでは考えが足りていないということを思い知らされました。本書を読んで、戦争について考えるということを学べたと思います。

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Hさん

 戦記を読んだのはほぼ初めて。これほど面白いとは。しかも本書では同時に大局観も得られます。

 電撃戦が印象的です。電撃戦とは、突進部隊が、側背を顧みずに突進し、指揮・通信・兵站上の要点を覆滅、相手の抗戦能力をマヒさせたところで、後続の通常部隊に残存する敵部隊を撃滅させるという戦術。たとえるなら、巨人の神経や血管を切るもの。なるほど。

 そしてもっと印象的なのが、「ロシアはフランスではなかった」。現場のソ連軍部隊は、指揮系統を混乱させられ、補給路を断たれても、なお頑強に戦いつづけた。また、電撃戦を可能としてくれるはずの、舗装道路も、自動車用ガソリンスタンドも、ほとんどなかった。悲惨な泥仕合の要素が揃っています。

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Iさん

 前回この本を紹介したんですが、皆さんの評価が高くて、紹介して良かったです。

 この本はとても読み甲斐がありますが、写真も印象的ですね。地面を埋め尽くす戦死者の写真(165頁)や、地平線の果てまで捕虜が並んでいる写真(106頁)等。

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 料理の写真は、パプリカとマイタケのマリネ。あと、ちょっと調理方法を変えてみた24時間低温調理豚バラ肉が好評で嬉しかったです。

 しかし、すごい新書でした。こういうのが新書の醍醐味だ。ではまた来月!


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