2024年7月7日日曜日

第41回読書会 ビブリオバトル・テーマ「大戦期ドイツ」

 

新書読書会「連鎖堂」、ビブリオバトルをおこないました! テーマは「大戦期ドイツ」です。今こそあの時代を考えたい。

次の7冊が紹介されました。


【1冊目】

『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(大木毅、岩波新書)

 独ソ戦は、双方のプロパガンダのために事実が表に出ず、まだしも分かりはじめたのはソ連が崩壊してから。しかし我々は今も、プロパガンダ時代の言説や、個人の戦争体験の物語に影響されています。本書で事実を知ることができる。全ての記述が印象的ですが、やはり悲惨さがすごく響きます。

 さらに、読んでいてぞくぞくしたのですが、歴史なのに、まさに今とオーバーラップするんです。というのも、独ソ戦の主な戦場がウクライナだからです。本書の刊行は2019年でウクライナ侵攻より前ですが、書かれる地名や、やっていることが、ウクライナ侵攻にかぶるのです。今こそ読みましょう。


【2冊目】

『悪と全体主義 ハンナ・アーレントから考える』(仲正昌樹、NHK出版新書)

 全体主義というのは、「大衆の願い」を政策にしたもの。この大衆の願いというのは、安心させてくれる、わかりやすい物語です。そして本書によれば、わかりやすさには危険がある。わかりにくさに耐える必要があるというのです。

 本書はNHK100分de名著をもとにしたもので、あの分厚い(3冊合計1300ページ!)の『全体主義の起原』をコンパクトにまとめてくれています。お得です。ただ少し背反するんじゃないかと感じるのが、わかりにくさに耐えろといいながら、本書はとてもわかりやすいんですね。やっぱり『全体主義の起原』を読まないとな、と思いました。


【3冊目】

『ヒトラー 虚像の独裁者』(芝健介、岩波新書)

 ヒトラーのせいだ、ヒトラーの責任だというのとはわかりやすいストーリーですが、本当にそれだけか。というのも、ヒトラーが大衆とともにあった、大衆がヒトラーを支持したという事実はあったからです。しかも私が思っていたよりも、その期間が長かった。敗戦が現実化してくるまで、支持があったようです。

 もちろん本書にはヒトラーの妄想や、ヒトラーだったからこその悪という面も書かれてはいますが、私は違う視点も得られたと思いました。


【4冊目】

『ヒトラーの時代 ドイツ国民はなぜ独裁者に熱狂したのか』(池内紀、中公新書)

 ドイツの一般人のなかには今も、ヒトラー統治時代を懐かしむ層が根強くいるという報道に接し、手に取ったのが本書です。

 ヒトラーが大衆に支持された背景として多額の賠償金、むごいインフレなど将来が展望できないような経済状況があった。そんな中で、ヒトラーの小気味の良い、二者択一を迫っていくようなスピーチが大衆には人気があった。
 ヒトラーは政権を握ってから当初の4年間は効果的な政策を連発し、仮にそこで他界していたらドイツ憲政史上もっとも有能政治家であったという評価が紹介されていた。ヒトラーが行った政策の中では、歓喜力行団(かんきりきこうだん)という、労働者に対して安価で質の良い旅行を提供するというものが、ナチス支持にもっとも大きなインパクトを与えたようだ。


【5冊目】

『ナチスと隕石仏像 SSチベット探検隊とアーリア神話』(浜本隆志、集英社新書ノンフィクション)

 皆さんヒトラーですが、私はヒムラーで。親衛隊隊長ヒムラーがチベットへ探検隊を派遣して発見したという、仏像(表紙の写真)から始まる謎についての本です。

 ハーケンクロイツがしるされた仏像は、どうやら本当に隕石からできているようですが、これはいったいどういうものか? アーリア神話のルーツを示すのか? 仏像なのにズボンを穿いている? ルーン文字? 研究機関アーネンエルベ? というか、第二次世界大戦開戦1年前にチベット探検してる場合か?

 ヒムラーは農学部の出身で、家畜のように人間を育種する構想まで持っていたというのです。ナチスのオカルト的側面がわかって、とても面白いです。


【6冊目】

『1918年最強ドイツ軍はなぜ敗れたのか ドイツ・システムの強さと脆さ』(飯倉章、文春新書)

 ドイツの特徴は、その容赦のなさ。長子相続に由来する権威主義が、軍隊の運用に向いていて、強いです。日本も長子相続で権威主義がありますが、和を以て貴しとなすという面もあります。ドイツには和はありません。欲望も剥き出しです。

 そうすると弱点は、まず作戦を共有しない。それから、弱いはずものが服従してこないと、ショックを受けて気を病んでしまう。そしてだんだん内側から崩壊してしまうというのです。とても説得的と思いました。


【7冊目】

『ヒトラーとナチ・ドイツ』(石田勇治、講談社現代新書)

 ヒトラー政権当時を追体験できるような、臨場感ある新書です。自分が当時ドイツに住んでいたとして、ヒトラーの台頭を防げたのか、と考えるんですが、実際、無理だったろうなと。

 ヒトラーの、最初は暴力で勢力拡張し、政権を取ったら専門職や経済エリートも取り込むという手並みが、防ぎにくい。逆にいうと、ボランティアで散々使われた挙げ句に、政権を取ったら秩序維持のために粛清(レーム事件)されたSA(突撃隊)の無惨さが印象的です。


 以上7冊、なんか物凄いラインナップですが、投票の結果…、

 『独ソ戦』がチャンプ本、イコール次回読書会の課題本になりました。おめでとうございます! 新書大賞受賞の新書の実力はいかに? 次回乞うご期待!
 あと個人的には、ちょっと変化球の『ナチスと隕石仏像』が気になる。


 料理のほうは、新作のエリンギガーリックバターが好評でした。

 いい新書が集まる…。自会自賛ですが、うーん、いいですね。また来月!


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