2023年8月30日水曜日

第36回読書会 ビブリオバトル・テーマ「不安に対処するための新書」


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。今回はビブリオバトル。テーマは「不安に対処するための新書」です! 不安を鎮めようと思いまして。

 以下の6冊が紹介されました。

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【1冊目】
『過剰可視化社会 「見えすぎる」時代をどう生きるか』(與那覇潤、PHP新書)

 今の社会は見えれば不安はなくなるとばかりに、全てを可視化しようとしてますが、可視化できない、表現できないものがあります。例えば「赤」と言えば、あの「赤」ね、と分かったようではありますが、本当はどんな赤なのか分かっていません。全て見えるという前提は誤っています。

 私としては、コロナ禍とその後の違和感が解消できました。社会編も個人編も、その後の対談パートも、とても面白いです。

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【2冊目】
『「認められたい」の正体 承認不安の時代』(山竹伸二、講談社現代新書)

 承認と自由はトレードオフの関係にあります。人から認められたければ、我慢するしかありません。承認には、他者に依存する側面があるのです。親しい間柄での承認にも、集団内での承認にも。どうすれば親や恋人から承認されるかよく分かりませんし、除草剤を撒けば集団内では承認されるのかもしれませんが…。

 しかし、一般的承認、普遍的価値を目指す承認なら、自分で自分を認めつつ自分勝手ではないという、他者に依存しない承認もありえます。それは、自分の欲望と自分がすべきこととをよく見て、折り合いを付けるという方法で、可能かもしれません。

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【3冊目】
『自己肯定感という呪縛 なぜ低いと不安になるのか』(榎本博明、青春新書INTELLIGENCE)

 なぜ最近こんなにも、自己肯定感なのか。

 日本人は自己肯定感が低いといわれますが、それは単に日本語のアンケートの聞き方かもしれません。日本語ができる外国人に日本語のアンケートを答えてもらうと、「とてもそう思う」と答える人は減って、「ややそう思う」が増えます。

 自己肯定感を上げればうまくいくと言われますが、順序が逆です。なにかがうまくいっているから、自己肯定感が上がるのです。それに、自己肯定感が低いからダメだと言われても、対処のしようがありません。

 またそもそも、自己肯定感が高けりゃいいというものではありません。不安には不安の役割、効用があるのです。

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【4冊目】
『どうせ死ぬのになぜ生きるのか 晴れやかな日々を送るための仏教心理学講義』(名越康文、PHP新書)

 人は予想不能のものに不安を覚えます。最も典型的なものは死で、過去その不安を解消するために使われたのは宗教でした。

 著者は精神科医ですが、けっこうストレートな仏教推しでした。末尾には般若心経の全文が掲載されてます。
 善行を積みましょうというような、ある種ベタですが、ただ、不安の解消は、ベタにしかできないのかもしれない、と思いました。

 ブッダから4000年経っても、同じようなことをやっています。宗教というのは、価値と行動を繋げる体系として生き残っているだけあって、うまくできてるものだな、と思いました。

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【5冊目】
『定年バカ』(勢古浩爾、SB新書)

 充実した定年に備えようという色々な「定年本」を、バッサバッサと切り捨てるスタイルの本です。その切り捨て方が徹底していて小気味良いほど。

 著者の考えの根底には、定年後は何をしても自由なので、逆に何もしない自由だってもっと認められるべきという考えがある。また、充実した定年後のためには前もって備えることが必要という主張に対しては、「備えなくたっていい。今までもなんとかなってきたし、定年したってなんとかなる」というスタンス。

 個人的には定年を考える年齢になってきましたが、定年に対する世間の意見とは一線を画するこんな見方もあるんだなと、参考になった。

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【6冊目】
『増えるものたちの進化生物学』(市橋伯一、ちくまプリマー新書)

 進化心理学はとてもおすすめの概念ですので、ぜひお持ち帰りいただきたい。

 増えて遺伝するものが生じれば、自動的に、不安や幸福は生じるというのです。というのも、危険を回避するために不安を感じ、繁殖を有利にして幸福を感じるものたちが、そうでないものたちよりも、増えるからです。われわれは増えるものたちの末裔で、不安や幸福を完全に無視することなどできないのです。

 しかし、それが単に自動的に生じるものだと知っているだけで、まだしも対処することができるようになるでしょう。

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 どの本も面白そうですが、どうでしょう、不安を鎮めるならどの本?

 投票の結果、同票で『過剰可視化社会』『自己肯定感という呪縛』『増えるものたちの進化生物学』の決選投票となり…。

 なんと決選投票も3対3対3で決着つかず、ジャンケンの結果、『過剰可視化社会』がチャンプ本となりました! ですので次回は『過剰可視化社会』の読書会です。

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 写真は豚バラ肉のワイン煮込み。今回はパプリカのマリネが好評でした。

 ではまた来月、いい新書とともにお会いしましょう。


 (月1回土曜午前に読書会を開催しています。詳しくはココをクリック!)