この本は、明確な解答のない問題について、取材で得た事実を次々に示す本です。つまり、結論を出す類の本ではありません。著者の迷いもそのまま書かれているのが誠実と思います。
この先、日本にとってもまさに他人事ではない問題について、多様な意見が出て、広く考えることができました。まずは事実を知らないと話しは始まらないと思ったことでした。
以下、参加者から出た意見です。
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Aさん
- 本書の著者と同じように、不法移民に対する考えが、ネガティブ寄りからポジティブ寄りに変わったように思う。
- 『〈敵〉と呼ばれても』(ジョージ・タケイ)と、本書(第3章)を読んで以来、日系人収容所についてもっと知るべきだなと思っている。
- 不法移民の犯罪者に息子が殺されたローラさんの話し(125頁以下)、感情を動かされた。ただ、犯人の属性のどこに着目するかによって、怒りや哀しみの向かう先が異なることになるのだろうなと思った。
Bさん
- 「不法」への著者の悩みが、とても印象に残った。
- シリア難民が道端で羊を丸焼きにしたエピソード(201頁以下)を読むと、やっぱり国民国家は、文化的バックボーンを前提にしているのだな、と思った。
- 18世紀から19世紀にかけて作られた国民国家という仕組みが、この先も持つのか、という疑問を感じた。特に、社会契約による国家の成立という説は、移民を考えると成り立ちがたいのではないか。
Cさん
- 聖域都市を補助金打ち切りで脅すトランプの部分(143頁以下)を読むと、やはり問題となるのはカネか、と思った。
- 難民を見て、自分の祖父母の苦労を思い出し、心理的に同一化するエピソード(157頁以下)を読むと、やはり問題となるのは心か、と思った。
- 日系人収用の歴史学習を促す法律制定過程(101頁以下)を読むと、やはり問題となるのは法か、と思った。
Dさん
- 「その昔、法律など存在しないこの土地に人々が集まり、米国ができたのです。後から来る人を政府が不法者扱いする方がおかしいでしょう?」(135頁)の部分が印象に残った。
- 雇用ミスマッチの問題が大きいように思った。日本でもそうだが、その国の人々がやりたくないことを、移民が担うという構造は、どう考えるべきか難しい。移民の利益になるところもあるだろうし、雇用ミスマッチをむしろ温存するようにも思うし、色々な齟齬が生じる原因にもなるだろうし。
Eさん
- 当局に両親の不法滞在を把握されることを恐れてDACA(若年移民に対する国外強制退去の延期措置)申請をためらう娘に対する、母の言葉が最も印象に残った。「私たちは子供に教育を受けさせるためにアメリカに来たの。その機会が得られるのだから、お願い、DACAを取得して」(313頁)
- 法律違反と悪とは別の概念だ。
- 国境を管理するということと、現に暮らしている不法移民を人道的に扱うということは、必ずしも二律背反とはいえないはず。
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楽しかった! そして今回はポークローストがなかなかの出来!
また来月も、いい新書とともにお会いしましょう。