今回の課題本は、『心病める人たち』(石川信義、岩波新書)です。
この本は、昭和40年代以降、患者の閉じ込めに向かった医療の中で、先駆的に精神病院を開放した医師の履歴です。まず波瀾万丈の物語として面白いですし、さらなる新書の喜びも得られる、いい本でした。
読書会では、精神病にまつわる個人的なエピソードも出て、さらに、精神病者を怖く思ってしまうこと、それに個人差があることをどう考えるか、そもそも精神病と正常とは何かといった、一人では考えることができない意見が交わされ、印象の深い読書会となりました。
以下、各参加者から出された意見のまとめです。
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Aさん
- 精神病との関わりについて、社会の変化などが、時系列で読めるのがよい。
- アンケートをとると、精神病院の近くに住む住民は、患者から迷惑をかけられたことがあるという項目にイエスと答える割合が高いが、患者に近くにいてほしくないという項目には、ノーと答える割合が高い(232-233頁)、というのが印象的だった。
Bさん
- 特に前半、物語的で面白くて読みやすい。波瀾万丈があって。後半は、著者の苦労が報われないのかと思ったりして、すらすらとは読めなかったが。
- 著者の苦労は報われるべきと思うが、ただ、通所施設を作ろうとして周辺住民に反対されるくだり(118頁)を読んでいると、自分も実際に住民だったら嫌悪感をもつかもしれない、と感じた。
Cさん
- 昔の精神病院の、「厄介者を預かってやっている」という発言(31頁)や、宇都宮病院事件のくだりを読んでいると、精神病院にまつわるすべてが連鎖しながら病んでいっているようだ。
- 患者は男女交際も許さないというのは、相手を人と思わない、優生思想とのつながりを感じる。ついこの前のように思う、20年強前に、まだ強制不妊手術が合法だったということにもつながると思う。
Dさん
- 宇都宮病院(石川文之進院長)のやっていることは、まるでスタンフォード監獄実験(フィリップ・ジンバルドー教授)のようだ。自分も、従業員だったら、虐待してしまったのではないか。
- イタリアの事例などを読むと、特に精神病では、正常と病の境目は、社会的に定まるといえるだろう。そうすると、人の病というより、社会の病と捉えることができるのではないか。
- 最近では、自閉症をスペクトラム(連続体)として捉えることが一般化しているが、精神病についても、正常と異常を分離することそのものがおかしいのではないか。
Eさん
- 著者がすごい。強靱な信念と、愉快で大胆なキャラクター。また、実践と学習を繰り返して発展させるやり方が。
- 精神病者の閉じ込めというのは社会問題で、社会問題はマクロの事象。しかし、解決を始めるのはミクロの個人にほかならない。本書では、ミクロがマクロにつながっていく様子が見える。そこが最も面白かった。
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楽しかった! また来月も、いい新書とともにお会いしましょう。