2026年4月5日日曜日

第48回読書会 『アイロニーはなぜ伝わるのか』&『Dr.STONE reboot百夜』


読書会「新書でマンガを読む」を開催しました! 課題本は2冊、新書『アイロニーはなぜ伝わるのか』と、マンガ『Dr.STONE reboot:百夜』です。

 目論見としては、『アイロニーはなぜ伝わるのか』で得たアイロニーの知識をもって、『Dr.STONE reboot:百夜』を読み解こうというもの。はたして目論見どおりにいくのでしょうか?

 (以下、『アイロニーはなぜ伝わるのか?』を「新書」と、『Dr.STONE reboot:百夜』を「Dr.STONE」と表記します。)

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【Aさん】

 アイロニーは、標準語や、私の母語の京都弁だと、非難が強くなりすぎてしまう。隣家が晩に騒がしかった次の日に、「昨日の晩も、えろう頑張らはって」とか。
 これが大阪弁だと、「昨日の晩もえらい頑張ってはりましたな~」で、もうちょっと許される感が出るような。
 で、アイロニーには、大阪弁ならノリツッコミで返せるんですよ。「そうそう昨日はちょっと頑張りすぎてしもて」みたいな。ノリツッコミってすごい発明ですよね。

 それでいうと、Dr.STONEは壮大なノリツッコミでは? 必ず帰ってくるという白夜のアイロニーへの、レイのノリツッコミとして読めると思うんです。

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【Bさん】

 アイロニーが苦手というか、額面通りに受け取ってしまうんです。出かけた後に大雨になって、「お出かけ日和だよね」と言われたら、「ああ、この人は、雨が好きなんだな」と思う。私も、陽がさんさんと照っているより、雨のほうが好きなんで。いや、これはアイロニーじゃなくて、本当にそうなんです。

 だからというのでもないですが、私はDr.STONEにはアイロニーはないと思いました。新書によればアイロニーとは期待と現実のギャップだということですが、Dr.STONEは、期待が現実化していく過程こそが面白いと思うので。

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【Cさん】

 新書は、アイロニーが伝わる理由の分析がメインですが、アイロニーの効果についても書かれていて、私はそこが面白いと思いました。アイロニーは、「期待」に言及することで、それと対になる「現実」とのギャップを浮き彫りにすることより、そんな期待が存在してたんだな、というインパクトを与える効果があります。

 その視点で読むと、Dr.STONEの、次の6点がアイロニーとして読めると思います。

【1】
「まあ、特に役には立たないオモチャだが… まぁ… ないよりは…?」「評価ありがとうございます」「褒められてねーよ!」
期待:評価するなら褒めるだろう あるいは、面と向かって低評価してはならない
現実:褒めていない あるいは、ロボットは面と向かって低評価されても気にしない

【2】
「レイ! 計算 超がんばってくれ お前ならやれる!!」
「これ以上無理です わたしは機械ですから がんばるとかそういった精神論は…」
期待:がんばればできる
現実:できない あるいは、ロボットにはがんばるという概念はない

【3】
「白夜様 戻ってきてくれますか?」
「…ああ 戻ってくる だから気楽に待ってな レイ」
期待:戻ってくる
現実:戻ってこられない(レイは戻ってこられないことを知らない。片面的劇的アイロニー)

【4】
「人間たちが全ての燃料を使い切っちゃいました!!」
期待:残されるものに対して少しは配慮するだろう
現実:人間はロボットの安全を気にしない

【5】
「こんなに近くに こんなに水が満ちてるのに 重力の向こうの300㎞はあまりにも遠すぎます」
期待:近くにあるのなら手に入るだろう
現実:重力のため、300㎞先の地球からではなく、2億5千万㎞離れた彗星からのほうが、水を入手しやすい

【6】
「白夜は この光を見たでしょうか? 君が見えると思ってくれたでしょうか? わかりません でも いつか見つけてくれるでしょう そして記憶してくれるでしょう このわたしレイとISSと宇宙を」
期待:白夜が信号としての光を見て、記憶してくれる
現実:白夜はいまわの際、または死んでいる(劇的アイロニー)

 以上6点ですが、私は、【5】のアイロニーのオリジナリティーが高いと思いました。

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【Dさん】

 新書31頁に、「アイロニー標識」、例えば「…(笑)」や、「……」などが、アイロニーの合図として使われると書かれています。
 新書は文章表現だけに絞って分析されてますが、マンガでアイロニーを考えると、アイロニーは映像表現のほうが伝わりやすいんじゃないかと思いました。例えばアイロニーを告げるときの表情などで、アイロニーをうまく伝えることができると思います。

 Dr.STONEのZ=1冒頭、美少女型ロボットは実はただの模型で、作成途中の自作PCみたいなほうが本物のロボット、というのも、映像表現をうまく使ったアイロニーと思います。

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【Eさん】

 Dr.STONEのレイが、人と最も異なるのは、アイデンティティの問題がないところだと思います。レイと、Z=9で150年後に3Dプリンタで「復活」する新バージョンのレイとは、当然のように同じものとされています。これに対して、人は新バージョンとアイデンティティが連続することはありません。
 このギャップによって、人間のアイデンティティの一回性、唯一性が表現できるのかと。

 Hさん AIから人間を逆照射するというのは、表現として使えそうですね。

 Eさん そうですね。もう一つ、Z=8で、彗星にドラゴンのような地球外生命体が凍って閉じ込められているのですが、レイの把握では「有機物資源」です。これも、地球外生命体を発見したときに期待される振る舞いと、資源を確保しようというAI的・目的的な振る舞いのギャップを示したアイロニーだと思います。

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【Fさん】

 私の好きな映画に、「さよなら子供たち」があります。ナチス占領時代のフランスで、ユダヤ人であることを理由に寄宿学校の先生が連行されてゆくとき、「さよなら子供たち、また会おう」と言うのですが、もう帰って来られないことはわかっているんです。レイの「帰ってきてくれますか」にも似た、劇的アイロニーだと思います。

 新書のほうでは、私の父から聞いた、海外での実体験を思い出しました。父は、後ろから女性がついて来ているときに、ドアを、日本でするようにそのまま通った(ドアを押さえなかった)ところ、後ろから大声で、「Thank you so much!」と叫ばれたとか。これは新書に出てくるアイロニーの例、そのままですよね。父のは実体験ですが。すごく印象に残ったみたいで、この話はしばしば言ってました。

 人は伝えたい、という思いが根底にあり、アイロニーはそれを強く表現したいツールな気がします。

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【Gさん】

 アイロニーには、受け取る側の問題があると思う。

 受け取る側が深読みしすぎると、なんでもアイロニーに聞こえてしまって、表現をそのまま素直に了解することができなくなってしまう。なんなら『アイロニーはなぜ伝わるのか?』を、アイロニーであると読んで、実はアイロニーは伝わらないものだということを表現したかった、とか読んでみたりして。
 だから、受け取る側がどこまでやるかという問題は重要だと思います。

 アイロニーというものが受け手の解釈によって完成するという例として、Dr.STONEの廃棄されたロボットが地球を救うという展開そのものを「アイロニカル」と評する、というのを上げます。

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【Hさん】

 私は劇の脚本を書いてますが、直接的に表現するのは、怖いことですね。例えば好きだということを告げるのに、「好きだ」というセリフは、書けないですよ。

 私は、直接的な表現によらずに伝えることを、自分ではずっと「うらはら」と呼んでいました。役者さんに、「ここは、セリフはこうだけど、うらはらの表現で」といったような。新書を読むと、アイロニーと捉えることもできるなと思います。

 あと新書で印象に残ったのは、「運命のアイロニー」の一例として出ている(149頁)、シェイクスピア『ジュリアス・シーザー』の登場人物の、「この壮烈な場面は繰り返し演じられるだろう」ですね。劇と現実とが交じるのが、感銘を受けました。

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【Iさん】

 新書では、反・民主主義者ジェイソン・ブレナン『反・民主主義』(150頁)や、プラトン『法律』(158頁)の、アイロニーの分析が印象に残りました。プラトンの話から続く、「樹木の当事者適格」、自然物に法的権利を付与するというのが、アイロニーなのかアイロニーを超えるのか(160-161頁)といったところも。

 Dr.STONEで印象に残ってるのは、Z=3の無重力での踊りの場面で、急にエロくなる! ところ。これはSFが続いたので読者サービスという、ある意味アイロニー、ですかね?

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 Dr.STONEは少年マンガですから、アイロニーが多いタイプでもないと思うのですが、それでもやはり、アイロニーが効果的に使われています。
 アイロニーは、(不合理な?)期待を炙り出す、実に面白い概念でした。

 あと『アイロニーはなぜ伝わるのか』で読書会をすると、「それはアイロニーかい?」という冗談が飛び出しがち。

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 今回の料理は豚バラ肉の塩トマトソース。福田和也の追悼(参加者に告げるのを忘れてましたが)のために、塩を強く利かせてみたんですが、ちょっとやりすぎたか。

 しかし、新書でマンガを読む、そんなことやってる読書会、他にないんじゃないですかね?(自読書会自賛) とても面白かったです。ではまた。


 (月1回土曜午前に読書会を開催しています。詳しくはココをクリック!)

2026年2月11日水曜日

第47回読書会 ビブリオバトル・テーマ「マンガを深く読むための新書」


読書会、「マンガを深く読むための新書」を開催しました! 今回はサマー・スペシャル、ビブリオバトルが2回です。まずマンガのビブリオバトルをして、次に「マンガを深く読むための新書」のビブリオバトルをする。


 目論見としては、チャンプ本となったマンガを、チャンプ本となった新書の知見で読み解くと、より深く読める、読めるぞ! みたいなものを期待しているのですが、はたしてこの目論見、というか皮算用のようなものどおりに、行くのかどうか! ドキドキです!(私が)

 まずはマンガのビブリオバトルです。

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【Aさん】

『隊長と私』(クリハラ タカシ)

 すごい不思議な世界で、夢のようなというか、読んでいると癒されるというか。いや違うな、言葉にしにくいんですけど、心の中で何かが解消指していくような…。というかこうやって説明するのももどかしいんで、読んでみてください! 私はこの本を手に取ったが最後、いつも終わりまで読み返してしまうんです。

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【Bさん】

『Dr.STONE reboot:百夜』(原作:稲垣理一郎、マンガ:Boichi)

 けなげなロボットって、いいですよね。すごく。わたしはここにいます。戻ってきてくれますか、みたいな。わたしはまもなく機能停止します、みたいな。もう泣きポイントがいっぱいです。

 物語世界も素晴らしい。大気圏突入してしまわないための燃料の獲得方法など、物理学的な緻密さも、読みどころです。

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【Cさん】

『大奥』(よしなが ふみ)

 江戸時代のパラレルワールドで、男女が逆転した世界の物語です。逆転なので、男性が大奥にいます。この設定を聞いただけだと、逆ハーレムが描きたかったのかと思うかもしれませんが、全く違います。社会的なリアリティがすごいんです。逆転したので女性が幸せだという単純なことでもなくて。人物の造形も、驚くほど秀逸です。これはぜひ、皆さんに読んでもらいたいです。

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【Dさん】

『これ描いて死ね』(とよ田みのる)

 「マンガ家マンガにハズレなし」という格言があるんですが、まさにそれ。東京都の島しょ・伊豆王島に住む、マンガを描き始める女子高生の話です。

 仲間を増やしていくという王道の展開ですが、マンガ部の面々のキャラクターがすごく良くできてまして、風呂敷というか世界観を拡げていくタイプの主人公と、絵が上手くて物語をきっちりまとめようとする友人、また、マンガを読むばっかりの友人とか。実にいいマンガです。

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【Eさん】

『絶対安全剃刀 高野文子作品集』(高野文子)

 高野文子さんって、今は、独特の落ち着いた画風が確立されて、高い評価も確立されているように思いますが、本書は初期の短編集で、一作一作画風が違いますし、かなり実験的な作品もあります。葬儀の場面を、定型的なコマ割りを連続させて描くとか。

 私が最も好きな作品は、「田辺のつる」。子どもとして描かれてるのが、実は高齢の認知症のおばあさんという。主人公としてのリアリティと、他の多くの人たちから見た状況とのズレを描くというのが、高野文子さんの面白さではないかなと思います。

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【Fさん】

『銃夢』(木城ゆきと)

 やっぱり、マンガって世界観というか、空気感ですよね。私の子どもの頃の現実で初めて経験した異世界、競輪場から受けた印象が、『銃夢』の「モーターボール」に似てるんです。その場末感と、サーキット特有のオイルの匂いまでしてくるような、リアリティが。いつまでもその世界に浸っていたい。

 ただこのマンガがすごいのは、世界観に淫するようなのではなくて、そこを超えようという意思が感じられるところなんです。

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【Gさん】

『暗殺教室』(松井優征)

 素晴らしくよくできてるんです。松井優征さんって、計算しきって描いてるんです。連載を始めた時点で既に、最後までの構成を作っていた。しかも、人気が出なくて早めに終わってしまうことに備えたパターンまで考えていたという。でも、元々『ボボボーボ・ボーボボ』(少年ジャンプ伝説のギャグマンガ)のアシスタントもやっておられて、ハジケるところでハジケることもできる。この人気の秘密、つまりマンガづくりの理論を、皆で味わってみたいです。

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 ではマンガのチャンプ本投票です。めっちゃ迷う。そして、『Dr.STONE reboot:百夜』と『これ描いて死ね』との決選投票となり…、チャンプ本は『Dr.STONE reboot:百夜』となりました! ワーワー!

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 続きましてさっそく、「マンガを深く読むための新書」ビブリオバトルです!

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【Aさん】

『老いと創造 朦朧人生相談』(横尾忠則、講談社現代新書)

 本書は、人生相談に横尾さんが答えたもので、全ての相談に、最後には「好きなようにしてください」と返すその言葉も面白いですが、それぞれの答えに、横尾忠則現代美術館のキュレーターが、絵をつけているのがいいんです。
 本は言葉だけですが、マンガはビジュアルと言葉ですよね。言葉で伝わらないものとあると思うんです。ビジュアルで、何かの答えを感じてもらうようなことが、あると思う。それを本書で感じました。

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【Bさん】

『宇宙はどこまで行けるか ロケットエンジンの実力と未来』(小泉宏之、中公新書)

 『Dr.STONE reboot:百夜』をチャンプ本に選んでいただきましたので、このマンガをより深く読むために、この新書を。最新の宇宙論が分かれば、『白夜』をより深く読めます! マンガでレイが燃料を獲得するために、なぜすぐ近くの地表(地球)に降りずに、わざわざ彗星まで行くのか。ロケット方程式が分かれば、そりゃそうだよなと、分かるんです。

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【Cさん】

『性差(ジェンダー)の日本史』(「性差の日本史」展示プロジェクト、インターナショナル新書)

 国立歴史民俗博物館が監修した、「性差(ジェンダー)の日本史」展の見所を解説した新書です。史料から語るものです。
 これを読むと、明治以前のほうが、男女の区分けは少なかったのではと思いますね。例えば采女(うねめ。天皇や皇后に近侍した女官)は、今でいうバリキャリで、能力で選ばれていました。その他、古代では女性も自分の財産を所有していた等々です。

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【Gさん】

『ひらめき教室 「弱者」のための仕事論』(松井優征、佐藤オオキ、集英社新書)

 「弱者」ってありますが、松井優征さんって、たとえばめちゃくちゃ絵が上手いとか、ワンピースみたいな勢いと壮大さが描けるとか、そういった天才ではないと思うんです。自分でそう言っていて、だから「どう見せるか」に全振りしていると。
 だからこそ、どう創りあげるかというのが、とても説得的なんですね。実際にありうるリアリティと、マンガ的盛り上げを、いかに両立させるかとか。マンガを知るにはすごくいい新書だと思います。

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【Dさん】

『構図がわかれば絵画がわかる』(布施英利、光文社新書)

 マンガでの構図の重要性って、言うまでもないくらいですよね。マンガを読み込むときに、構図の面から読んでみると、また新しい発見があると思うんです。
 例えば、私が発表した『これ描いて死ね』のこのシーンでは、立った登場人物と座った登場人物を描いて、構図は底辺が広い三角形で、印象的なセリフがバーンと上に掲げられている。やっぱり印象的ですよね。

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【Fさん】

『荒木飛呂彦の漫画術』(荒木飛呂彦、集英社新書)

 荒木飛呂彦曰く、「主人公は常にプラス」。主人公を常にプラスにするのはけっこう辛い作業のようで、いったんは主人公を挫折させようかという「誘惑」に駆られることもあるらしいんですが、それはダメだと。マンガは辛いこともある人生を表現するものではない。常にプラスの気持ちを与えるものなんだという、強い倫理感のようなものが印象的です。
 『岸辺露伴は動かない』の「富豪村」をどのように描いたかの解説も面白いですし、マンガを知るのにいい新書です。

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【Eさん】

『アイロニーはなぜ伝わるのか?』(木原善彦、光文社新書)

 先ほどのチャンプ本『Dr.STONE reboot:百夜』のレイの、「戻ってきてくれますか」をけなげに感じるのは、戻って来れないからですよね。これは本書で言う「劇的アイロニー」なのかもしれない。
 アイロニーっていうのは様々で、単に逆のことを示すだけではありません。ただそうなると、より一層、なぜ伝わるのか不思議ですよね。
 本書では「メンタル・スペース構造」などの理論で、アイロニーの伝わり方を解明しようとするものです。後半は古典作品などを題材とした実践解説です。マンガは例になっていませんが、マンガを対象にやってみるのも面白いはずです。

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 では新書のほうの投票です。こちらは『宇宙はどこまで行けるか』と『アイロニーはなぜ伝わるのか?』の決選投票となり…、『アイロニーはなぜ伝わるのか?』がチャンプ本に選ばれました!

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 ですので次回は、『アイロニーはなぜ伝わるのか?』の知見をもって、『Dr.STONE reboot:百夜』を読み解こうではないかと!

 現在明らかになっているだけでも、『Dr.STONE reboot:百夜』ではアイロニーが使われているようなので。楽しみです!


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2026年1月19日月曜日

第46回読書会 『土葬の村』

『土葬の村』

『土葬の村』読書会を開催しました。本も面白かったですが、葬儀のような、人によって実は大きな違いがある経験を話し合うというのも、実にいいですね。これも読書会の醍醐味だと思います。

 出た意見は次のとおりです。

【Aさん】

 30年くらい前、奈良県での親族の葬儀は、土葬でした。この本に書いてあるとおり(25ページ)、埋め墓と参り墓の両方がありました。

 埋め墓では、一家で使えるスペースは限られているので、掘っていると普通に骨が出てくるんです。それでみんなが「あれは○○さんの骨やろか?」「いや、もっと古いから○○さんちゃうか?」って話すんですよ。中学生だったので、他に葬儀の経験がそんなになかったこともあり、骨が出てきてもそんなものかと思っていました。

 家系に長寿の人が多かったので、文化というか何かしらが受け継がれてきたというのもあるかもしれません。

 66ページ「この時期〔新型コロナ〕だから自粛で人を呼べないということもありますが、そうでなくても縁故関係が疎遠になってきている。それが土葬が減った理由です」の部分。人が亡くなるにあたってそれに纏わることは人間にとって大事なことだと思うので、その大事なものがコロナ禍で失われたのだと思うとショックでした。

○ 理想の弔われ方は、できたら陽の光や風を感じるようなところに埋められたいかな。

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【Bさん】

 170ページ、「お骨上げのときまだ温かい骨を手につかみ、火葬役の働く姿を遺骨とともに子どもに見せることがある。顔をしかめる大人もいたが、なんの衒いもなく子どもに見せることが、とりもなおさず人が死ぬことの意味をまっすぐ伝えることだ」

 これを読んで、30年以上前に祖父がなくなったとき、叔父が子供たちに祖父のほっぺたを触らせて、硬くなっていることや、冷たくなっていることを教えていたのを、まざまざと思い出しました。

○ 理想の弔われ方は、献体。私は献血が趣味っていうくらいで、最期も社会に貢献しようと思って。ちなみに、献体も、最後は火葬なんですよね。

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【Cさん】

 民俗が印象的。例えば285ページ、「モノオイ」のかけ声、「アネアネ!」「クネクネ!」「タマタマ!」「ワー!」とか。

 39ページの「巫女聞き」も。「ああぼちぼち乗り移ってきたわ」とか言う。あと、巫女聞きから帰ってきたときの定型どおりの答えが、「あほらし、こんなこと二度とせんわ」というのもなんか笑える。

○ 理想の弔われ方は、子どものころに遊んでいた雑木林に、そのまま埋められるというのがいい。この本みたいなコミュニティの中での土葬っていうより、元素から自然に還りたいみたいな。

 Gさん 散骨とはちょっと違うか。樹木葬に近いような。

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【Dさん】

 「ムダをすることが供養になる」(82ページ)というのがなるほどと思った。

 親しい人に前触れなく失踪されたりすると、のこされた人は、気持ちを処理できない。弔うということは、なにかムダなことでもして、世界をその人がいない世界に再調律するものなんじゃないかと思いました。

 さっきCさんが言っていた、巫女聞きの「あほらし、こんなこと二度とせんわ」という定型の答えは、死者の声が聞けるという非日常の世界に執着してしまわないための一種の分離儀礼なのでは。

○ 理想の弔われ方は、現実にはあまりこだわらないんですが、妄想としては、完全消滅したい。Cさんみたいな元素がめぐるっていうのじゃなくて、元素レベルまで完全消滅したいんですよね。反物質で対消滅させれば可能かも。

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【Eさん】

 21ページ、「おそらく私が南山城村の土葬の最後の導師なのでしょう」というのが印象的でした。もう送るコミュニティがなくなっているんだろうなと。

 知人が亡くなったとき、葬儀社やお坊さんには全く頼まずに、仲間でバンドを入れて弔ったことがあった。祭壇も自分で作って。これはとても印象に残ってますね。皆で送るという感じになるし。

 Gさん お坊さんにも色々いて、明らかにエンターテイメントにふってるお坊さんもいるよね。

 Bさん 母の葬儀は神式で、笙の演奏がついて、ある意味バンド入りだった。

 Eさん 確かに、読経の声のうねりにも、芸を感じたことがある。

○ 理想の弔われ方は、あまりこだわらないというか、合理的なのがいい。私は、作品が残るというか、データとして残ればいいと思っているので。

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【Fさん】

 もう50年くらい前、子どものころに体験した土葬は、この本の一章と、同じ部分が多かった。白装束に三角巾、野辺送り、75ページ写真と似た手押し霊柩車もありました。北関東ですが、昔は全国で土葬に共通点があったんだなと。

 50年前の土葬で印象的だったのは、「六尺(ろくしゃく)」と呼ばれる、町内会の係。墓地に行き穴を掘り、埋葬を担当する係です。
 町内会長が葬儀委員長みたいな役目をして、六尺や、帳場(香典の受付)、調理などの葬儀の係を決めて運営します。おそらく、死の穢れを町内できちんと処理しなければ、という意識が強かったんじゃないかな。
 本書にもあるとおり親族はあまり遺体とは関わらなくて、六尺など町内の係の人々にお礼をするんです。

○ 理想の弔われ方は、私も元素レベルで自然に還るという形。散骨のようなのが理想かな。

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【Gさん】

 83ページ、「90歳で亡くなったおばあさんは、例えば20歳で嫁入りしてきて、70年間田んぼや畑を耕し村のつきあいをしてしたんです。葬儀会館のお葬式は、それをある日、一瞬で送るわけです。私はそれにどうしてもなじめません。みんなで“ムダ”をいっぱいして故人を送ることが供養になるのです」というのが染みた。

 私の経験でも、葬儀っていうのは、周りの納得の問題なんだよ。

○ 理想の弔われ方はない! だってどうせ私が死んだら世界は終わるのだからさ...。

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 いやー、面白かった。土葬を直接経験したのが7人中2人というのは驚き!

 今回の料理は、豚バラ肉グリルにフライドオニオンのバーベキューソース、海老とオリーブの冷たいマリネなどなど。

 ではまた来月!

豚バラ肉グリルにフライドオニオンのバーベキューソース

 (月1回土曜午前に読書会を開催しています。詳しくはココをクリック!)

2026年1月18日日曜日

第45回読書会 ビブリオバトル・テーマ「少数派」

ビブリオバトル・テーマ「少数派」

ビブリオバトルを開催しました。テーマは「少数派」。

以下の8冊が紹介されました。様々な少数派の本をどうぞ!

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【1冊目 Aさん】

『土葬の村』(講談社現代新書、高橋繁行)

 日本は火葬大国。しかしほんの数十年前まで、土葬も普通に行われていました。しかも日本の火葬はお骨を墓の下に納めるもので、土葬の名残がある。全てを灰にしてしまう徹底的な火葬とは違います。土葬は別世界のものではないんです。

 土葬に手間がかかるのが印象的でした。死後硬直よりも前に埋められる体勢にしなければならないとか、あとやっぱり場所の問題とか。

 その他、日本にもあった風葬や鳥葬、沖縄の土葬など、様々な弔いが心にのこります。

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【2冊目 Bさん】

『ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実』(講談社現代新書、望月優大)

 移民についての議論は色々ありますが、まずそもそも、移民は既にいる(人口の2%強)、というのが出発点であるはずです。しかし、日本は単純労働の移民を受け入れない、という建前があるため、既にいる移民が議論されず、不可視となっています。

 入局管理局に与えられている裁量の大きさに驚きます。そこには議論がなく、それ以前に、議論の材料となるべき実態が知られていません。それを知るためには、堅いテーマですがリーダブルな本書、お勧めです。

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【3冊目 Cさん】

『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社新書、伊藤亜紗)

 目の見えない人の世界は、目が見える人が目をつぶった世界とは、ぜんぜん違います。

 目の見える人は、世界を2D的に把握しています。対して、目の見えない人は、模型などで世界を学ぶこともあって、世界を3Dで把握しています。「視覚がないから死角がない」というのが面白い。例えば皆さん、万博公園の「太陽の塔」には顔がいくつあると思いますか? 2つ? 違います。「背面」にも1つ顔があるので、3つです。目の見えない人はこれを間違いにくい。目の見える人は、「前面」からのビジュアルを思い出すのですが、目の見えない人は「背面」もちゃんと把握しているのです。

 Fさん
 サッカーの名手は自分や状況を鳥瞰できると聞いたことがありますが、それは目の見えない人の世界と関係がありますか?

 Cさん
 いやおっしゃるとおりで、メッシの状況把握は、ブラインドサッカーでの把握と似ていると書いてありました。

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【4冊目 Dさん】

『女装と日本人』(講談社新書、三橋順子)

 歴史が面白いんですが、社会学的な分析も鋭いです。例えば、「パス絶対主義」について。女装者における、男性だとバレないことに強い価値をおく意見です。

 しかし著者によれば、女装だとバレていても、女の格好をして女として振る舞っていれば(doing female gender)、相手も「女扱い」してくるというのです。「日本社会では、バレたからといって相手の態度が百八十度変わるというものではないのです(稀にそういう人もいますが)」
 そういう女扱いについて、「『それは配慮パスだから、ほんとうのパスではない。意味がない』と否定するパス至上主義の性同一性障害者は、あまりにも現実の社会を知らなさ過ぎます。世の中というものは、相互の配慮で成り立っているのですから」。うーん、なるほど。

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【5冊目 Fさん】

『日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る』(ブルーバックス、播田安弘)

 ブルーバックスを持ってきましたが、ブルーバックスなのに、日本史ですよ。本書のような日本史の理系的把握、とても面白いです。

 例えば秀吉の中国大返し。素早い決断だというような話で済ませずに、実際、どんな困難が生じるのか、分析してみるのが本書です。秀吉の軍は、30㎏の荷物を担いで1日あたり30㎞の道のりを8日間続けて踏破し、その後に戦ったというのですから、すごいのは決断力だけではないことが実感としてわかります。

 その他にも、元寇の神風、日本海海戦の敵前大回頭などが分析的に検討され、興味津々です。

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【6冊目 Gさん】

『白人ナショナリズム アメリカを揺るがす「文化的反動」』(中公新書、渡辺靖)

 白人はこの先、少数派に転落することが人口統計から明らかです。

 自分は差別主義者ではないという白人ナショナリスト曰く、少数派に転落することの恐怖や、移民を制限するべきだという考えを口にすると、差別主義者と呼ばれる。「日本に毎年、数百万人の移民が来て、それに反対すれば差別主義者と言われたら、どう思いますか?」

 白人ナショナリズム、思ったよりずっと複雑で、重い問いだと思いました。

 Dさん
 アメリカはそもそも、移民の国では?

 Gさん
 先に来たほうが偉いということになっているようです。

 Dさん
 えええ。うーん。

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【7冊目 Hさん】

『知の仕事術』(インターナショナル新書、池澤夏樹)

 インターナショナル新書の001番、個人編集で世界文学全集と日本文学全集を出すという偉業をはたした池澤夏樹さんが、初めてその読書術などを公開したもの。おすすめです。

 さて本日のテーマは「少数派」ですが、本書の「はじめに」を読んでみましょう。

 「ものを知っている人間が、ものを知っているというだけでバカにされる。ある件について過去の事例を引き、思想的背景を述べ、論理的な判断の材料を人々に提供しようとすると〔…〕、それに対して「偉そうな顔しやがって」という感情的な反発が返ってくる。」

 どうですか皆さん、お互いに新書を紹介しあって遊ぶなんて、たいがい少数派を自覚しないといかんですよ!

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【8冊目 Iさん】

『カーストとは何か インド「不可触民」の実像』(中公新書、鈴木真弥)

 カーストの根本は職業固定のようで、その意味では世界のどこにでもあるものと思います。

 しかし、インドのカーストは根強い。インド政府はカーストを崩そうとしていますし、カーストと関係のない宗教も沢山ありますし、カーストと関係がなかった分野(ITなど)のほうが参入規制がなくて発展したという経済的現実もあるのに、複雑に絡まり合って、難しい。
 例えば、被差別カースト出身者に大学入学の優先枠を与えると、合格発表でカーストが明らかになって、逆に固定化してしまうのはないかとか。というか、そもそも全ての合格発表にカーストが書かれる、というのには驚きました。やはりカーストの国ですね。

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 さて、どの本が読みたくなったか投票しますと…、僅差の中、『土葬』『女装』『日本史サイエンス』の決選投票となり…、さらに僅差で『土葬の村』がチャンプ本に選ばれました! ワーワー!

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 今回の料理は、低温調理豚バラのバルサミコソース・湯むきしたプチトマトのマリネ・牡蠣のリゾット・エビとズッキーニのソテー。料理は私一人で作ってますので、改めて写真で見ると、これを25分くらい?(もちろん読書会前の下準備は別)でサーブできるようになったのは、手際がよくなったもんだ、と思ったことでした。この後、クリームチーズとあんずジャムのカナッペと、フレンチトーストもサーブしてます。

 では次回は、『土葬の村』でお会いしましょう! 

低温調理豚バラのバルサミコソース・湯むきしたプチトマトのマリネ・牡蠣のリゾット・エビとズッキーニのソテー

 (月1回土曜午前に読書会を開催しています。詳しくはココをクリック!)

2026年1月17日土曜日

特別回第4回 「文学フリマ京都で買った本」

文学フリマ京都で買った本

人生で初めて、文学フリマなるものに行ってみました!

 自分で作った本を売る人々が、かなり広い体育館サイズを埋めるくらい集まって、すごく独特の雰囲気です。個々のブースは小さい(椅子二つ分)んですが、約700ブースもあって、通路の両側に果てなく並んで、そして、分け入っても分け入っても知らない本。新鮮でした。本屋では、もうそういうことはないので。

 最近は初めての経験というのが減っているので、楽しい!

 慣れないうちはぜんぜん買えなかったのですが、一冊買うと興奮してきて、結局5冊買ってしまいました。すっきり。
 あと、見本誌コーナーに最後になって気づいたのですが、このコーナーも選びやすくていいですね。

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 午後からは、参加者7名で、特殊ビブリオバトル「文学フリマ京都で買った本」を行いました。文学フリマで買った本をいきなり読んで集まり、互いに紹介し合うという遊びです。

 以下、参加者による本の紹介です。

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【Aさん】

 文学フリマは初めてです。こんな機会がなかったら自分では一生たぶん行かなかったので、今日はよかったです。全てのブースをなめました。でもやっぱりちょっと立ち読みはしにくいかな。

 買った本のなかでイチ押しは、『自由律俳句集 寿司はSF』(浅井五月)

 表紙から良い感じなので、手に取りました。

 例えば、

 駅弁太陽ますの寿司あなたに会いにサンダーバード

とか。あのサーモンピンクのます寿司と、あまずっぱい感じの旅の期待感が合わさって、いいと思いません?

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【Bさん】

 SF大会は行ったことありますが、文学フリマは初めて。けっこう買っちゃいました。特に小説家になろう短編集3冊を買いましたが、考えると、ネットで無料で読める。でも買った。

 買った本のなかでイチ押しは、『これより先には入れません』(谷川俊太郎、木下龍也)

 例えば、

 大金持ちの伯母に自家用UFOを誕生日にプレゼントされた
 宇宙に興味のない妻はそれをメルカリに出した以下次号

とか。これ、誰の作だと思います?

 正解は谷川俊太郎さん。90歳を過ぎても、この詩が作れるのはすごいなと。詩人と歌人の交換「対詩」になっていて、面白いです。

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【Cさん】

 文学フリマはコロナ前に行ったことがあります。昔よりもたぶん3倍くらいブースが増えたように思いました。

 買った本のなかでイチ押しは、『かわいいを創造する! 人とぬいぐるみの共同プロジェクト WE ARE KAWAII ともるんといっしょ』(星野 灯×秘密結社らびっといあー)

 かわいいです。ひたすらかわいいです。最初から最後までかわいいです。人生で初めて秘密結社に出会いました。謎のかわいいぬいぐるみは、じつはネコ(のぬいぐるみ)をかぶっています。その謎ぬいぐるみが書いた(という)詩も載ってます。かわいいですね。

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【Dさん】

 文学フリマは初めてですが、ビール醸造ものと、翻訳ものを狙ってみました。

 買った本のなかでイチ押しは、『JORGE LUIS BORGES BORGES ON MYSTERY』(エディション・プヒプヒ)
 ホルヘ・ルイス・ボルヘスの、推理小説に関する文章をまとめたものです。

 ボルヘス曰く、推理小説が、「疑いながら読む」という読者を初めて作ったと。とても面白い指摘です。

 それはいいんですが、推理小説の歴史を振り返りつつ、『モルグ街の殺人』のネタバレから初めて、次々にネタバレします。
 ボルヘス曰く、推理小説は滅びつつある、なぜなら全てのプロットが書かれてしまうから、というのですが、それはボルヘスが全てネタバレするからでは。

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【Eさん】

 文学フリマは初めて。作り手の人とちょっと会話できたりして、やっぱりいいですね。

 買った本のなかでイチ押しは、『都市空間における管路の形態』(屋良信幸)

 都市の路地裏やビルの裏側に走る、ガス管・水道管・排気ダクトの、美しさ! 「魅力的なのは3つのガスメーターが、リズミカルに並ぶ姿。それは、3人組アイドルユニット」。こいつは何を言ってるんだ、とお思いか? しかし、見れば本当に分かります。

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【Fさん】

 文学フリマはずっと行ってます。

 買った本のなかでイチ押しは、『CRAZY GAL ORCHESTRA MAGAZINE vol.1』(CRAZY GAL ORCHESTRA)

 みなさんご存じですか? 日本で演奏されるオーケストラの曲のうち、女性作曲家による曲はなんと0.52%だけ。200回に1回! そんな状況で結成された、「CRAZY GAL ORCHESTRA」。まだ新しいオーケストラですが、私も一度、ぜひ公演に行ってみたいなと。

 この本には、ネイルアートに白鳥をあしらって演奏できるかなど、フリマらしいリラックスネタも載っていて、楽しいです。

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 ビブリオバトルですので「いちばん読みたくなった本」に投票したところ、票が割れましたが、『都市空間における管路の形態』と『CRAZY GAL ORCHESTRA MAGAZINE vol.1』の2冊がチャンプ本となりました!

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 今日はいい経験をした。なお、作る側というか売る側に回ると、もっとグッとくるらしいですよ! (下の写真は、私が買った本)

20240120文学フリマ京都で私が買った本の写真

 (月1回土曜午前に読書会を開催しています。詳しくはココをクリック!)

2025年6月24日火曜日

第44回読書会 『〈弱いロボット〉の思考』


『〈弱いロボット〉の思考 わたし・身体・コミュニケーション』(岡田美智男、講談社現代新書)の読書会を開催しました! 今回の読書会はちょっと、びっくりするくらい良かったです。

 本書曰く、会話は、「蟻の残した足跡」のように進むと。
 一つひとつのアイディアは、それぞれの学生から生まれてきたものであり、「あっ、なかなか鋭い!」とそれを学生の聡明さや発想力のようなものに帰属させてしまうこともできる。ただ学生に尋ねたならば、「いや、他の人の書き込みにつられて、たまたま思い浮かんだことなんです」などと答えることだろう。その発想を生みだせた要因は、学生たちの個々の思考とそれを取り巻く人とのあいだにわかち持たれたものなのだ。
 本書全体も「蟻の残した足跡」のように進むので、読書会も「蟻の残した足跡」のように進むのでした。

 今回の読書会は尋常じゃないくらい良くて、マジックリアリズムのように素晴らしかったんですけど、あまりに蛇行するので、記録できず!
 いつもは発言者と発言を特定して記録してるんですが、今回はできませんでした。なので話題や発言は概ねあったものですけど、順番などは創作も含んでます。
 「他者の想起内容と、自らの想起内容とがどこかで融合し、オリジナルはどちらなのかわからなくなってくる」という、本書に書いてあったことそのままの事態に!

 そんなわけですが、読書会の記録は次のとおりです。

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【Aさん】
 弱いロボットを蹴っちゃう子もいたりするんですけど、弱さというのがそのまま長所だとはいえないと思うんですよね。弱さが敬意や信頼につながってこそって、この本にも書いてあるけど、弱さが敬意や信頼になぜつながるかってことは、そんなに書いてない。

【Bさん】
 弱そうだと、かわいいからじゃない? これは日本人的なのかもしれない。日本のロボットはアトムもドラえもんも幼児体型だし。でもそうだとしても、弱そうだからかわいいとなるのは何でかっていう話にはなるか。

【Cさん】
 あと、かわいければいいのかっていう話にもなる。それで思い出すのは、『共感という病』(永井陽右)っていう面白い本があって、弱くてかわいくて困ってる子は助けてあげたくなるけど、キモくてハゲてて困ってるおっさんは誰も助けようとしないっていう。それでいいのかっていう。

【Dさん】
 なんでハゲw でもそれでいうと、よく考えたら、この本のロボットって、弱さとかかわいさを利用して他人を操ってるともいえますよね。

【Aさん】
 あー、それ思いましたね。誤解されたくないんですけど、弱さをあえて人前でみせるのを手法みたいに使う女性を思い出しました。

【Dさん】
 操る、なあ。そういえば、男性用の小便器のちょっと高い部分に777とかのシールを貼ったりする(飛び散りが少なくなって、清掃費用が少なくすむ)とかのテクニック、えー、なんだったっけ? 行動経済学とかの、無意識を使って社会を良くする的な。

【Cさん】
 ナッジかな。

【Dさん】
 そうそれ。ナッジについて書いてあった本(タイラー・コーエン『大格差』)に、「ナッジは良いものと捉えられているが、ナッジを設計する人が正しく判断するとは限らない」って。
 ていうか普通、無意識を利用して操るっていうのは、ヤなことのはずですよね。でもこの本はぜんぜんヤな感じがしないのはなぜだろう。

【Bさん】
 それはこの本に、制作過程が書いてあるからじゃないか。システムの狙いとかも含めて制作工程を楽しむような感じが、いいと思った。

【Eさん】
 私は、弱いロボットはブラック企業みたいだと思った。

【Dさん】
 ブラック企業!

【Eさん】
 人の善意を利用しちゃうという意味で。でも、そういう善意を利用するっていうのは、むしろロボットだからできるんじゃないかと思った。人が弱さを利用するって、やったらダメでしょう。そういう意味で、やっぱりロボットの可能性を感じた。

【Fさん】
 人が弱さを見せる、ねえ。弱さの見せ方もあると思う。この本にも書いてあるけど、どう困ってるか分かるかとか。
 昔は会社でヨタヨタしてる人がいたら、助けてあげようっていうより、イラッとした。でも今は助けてあげてる。昔はこっちに余裕がなかった。それを思うと、助けるようになるかは、弱さの見せ方にもよるけど、こっちに余裕があるかにもよると思う。

【Gさん】
 私も、会社で母をやってるw

【Fさん】
 できの悪い子と思えば、何でも許せるのよw

【Gさん】
 そうそう。優しくすると優しさが返ってくるから。優しさはお金のように回さないと。

【その他の印象的な発言】

【Hさん】
 私は街を散歩するのが好きなんですが、この本を読んで、街が私を散歩させる、と思った。

【Iさん】
 完璧に快適にしてもらうと、無駄なことをしたくなる。

【Jさん】
 ASIMOの「動歩行」は、むしろ倒れそうな力を利用するっていうんですけど、私の倒れそうな経験も力にすることができそうだと思ってよかった。弱いことはマイナスだけではないということが分かってよかった。


 今回のデザートはフレンチトースト! 自料理自賛ですが、けっこうおいしくできた!


 読書会って、本当にいいものですね。ではまた来月。


 (月1回土曜午前に読書会を開催しています。詳しくはココをクリック!)

2025年6月19日木曜日

第43回読書会 ビブリオバトル・テーマ「人間関係」


ビブリオバトルを開催しました。テーマは「人間関係」。やっぱ、なにもかも、人間関係ですよね! 豊作が期待できる…。

 以下の7冊が紹介されました。

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【1冊目】

『「人それぞれ」がさみしい 「やさしく・冷たい」人間関係を考える』(石田光規、ちくまプリマー新書)

 ようやく「人それぞれの社会」が到来したのに、息苦しくて生きづらいのは、世間の目で優劣をつけ個人の行動を縛る集団的体質は変わっていないから…ということを丁寧に解説してくれる本です。

 「親ガチャ/子ガチャ」を恐れて子どもを産まない選択をするようなエピソードがあったが、私も同様な恐れが大きかったけれど結局「案ずるより産むが易し」だった。リスクを避けて撤退するのと、リスクに飛び込める違いは、どこから生ずるのでしょうか。

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【2冊目】

『パワハラ上司を科学する』(津野香奈美、ちくま新書〉

 どういう状況だとパワハラが起こりやすいかなど、パワハラの様々な面について、データに基づいて明らかにしてくれます。このデータ重視が、とても好ましいです。

 著者はパワハラ防止の講師もしているんですが、受講者から、「何かパワハラになるか分からないので、部下にはあまり関わらないようにしようと思います」と言われることがあるらしいんです。でも著者によれば、それは全く誤解です。パワハラを最も起こすのは確かに支配型の上司なんですが、放置型の上司の下でもパワハラは生じやすい。適度な関わりが重要なんですね。

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【3冊目】

『夫に死んでほしい妻たち』(小林美希、朝日新書)

 夫に死んでほしい。実例がたくさん示されて、恐ろしい本です…。共働きなのに家のことは何もしない夫。投資に暴走して言うことを聞かない夫。離婚するより死んでくれたほうがお得。その他たくさん…。

 これは、残業などの日本の労働環境にも原因があるようなんですが、妻に死んでほしい夫はあまりおらず、夫に死んでほしい妻はたくさんいるということは、男性こそ、この本を読む必要があるということですよ…。ぜひ読みましょう。

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【4冊目】

『人間関係のレッスン』(向後善之、講談社現代新書)

 いい人でいようっていうのは、実は、いいことではないんです。

 いい人でいようという裏には、批判されたくないという気持ちがあります。でも、批判されたくないという気持ちは、しっかりした関係が築けないことにもつながって、最終的には失敗しがちです。しかも難しいのは、いい人は、特に幼少期に親の顔色をうかがって危険を回避してきたという、ある意味で成功体験があるために、失敗を認識しにくくなってしまっているんですね。

 その他も、人間関係についてとても実践的な本で、お勧めです。

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【5冊目】

『人はなぜ集団になると怠けるのか 「社会的手抜き」の心理学』(釘原直樹、中公新書)

 1対1で綱引きをしたときにその人が出す力を100とすると、2人対2人では93に下がります。そして8人対8人でやると、人はなんと、50の力しか出しません。
 ブレインストーミングは多くのアイデアを生みそうで、もてはやされていますが、実は一人一人がそれぞれアイデアを出すほうが、アイデアの量も質も上回ります。

 本書には、解決案も載っているのがいいですね。ブレインストーミングなら、途中から1人ずつ、参加人数を増やしていくなどです。

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【6冊目】

『〈弱いロボット〉の思考 わたし・身体・コミュニケーション』(岡田美智男、講談社現代新書)

 この表紙の赤いロボットと青いロボットは、ゴミ箱ロボットです。なにをするかというと、ゴミにヨタヨタ近づいていって、その周りでマゴマゴします。マゴマゴするだけ。だけどそれを見るとつい、きれいにしてしまうんですね。

 ロボットは高性能であればあるほどいいはずですが、例えば高性能お掃除ロボットがいたとすると、ちょっとゴミが残っているだけで、憎しみまで生じてしまいかねません。ちなみに、ルンバが性能が低かったころからヒットしたのは、そのお世話感がいい感じだったのではないかと。著者によれば、ロボットも、関係性のなかで考えるべきだというのです。面白いです。

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【7冊目】

『会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション』(三木那由他、光文社新書)

 会話というのは、言葉を媒介にして思いを伝えるもの、ではないというのです。

 例えば『パタリロ』では言葉とは逆の約束ごとが発生していますし、『同級生』では、好きだという思いは伝わっていても、「好きだ」と言ってほしい気持ちが表現されています。

 私は、学術書しか読まないし、腹芸が分からないし、情感がないんですが、そんな私でも、文芸って、やっぱりいいなあと。ぜひみんなで読んでみたい本です。

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 さてチャンプ本は…、『人はなぜ集団になると怠けるのか』、『〈弱いロボット〉の思考』、『会話を哲学する』の3冊の決選投票となり…、『〈弱いロボット〉の思考』がチャンプ本となりました! ワーワー!

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 料理のほうは新作、ムール貝ワイン蒸しです。なかなかいいのでは。

 では次回は、『〈弱いロボット〉の思考』の読書会です! 実に面白そう。来月も楽しみです。ではまた。


 (月1回土曜午前に読書会を開催しています。詳しくはココをクリック!)